2011年6月アーカイブ

パーソナル・ゲノム解析に要する費用がどんどん誰にでも手に届く値に近づいてきて、それを扱う民間企業もどんどん増えてきて、個人が自らの遺伝情報のすべてを手に入れることができる時代が迫ってきています。近い将来には、国民全員にsocial security numberとともにICチップが配布され、そこにゲノム情報も搭載されて、それが医療現場に導入される日もそう遠くないかもしれません。これにより生み出される問題に社会が対応できるように体制を整えていく必要があります。疾患リスクが判明することで、予防を講じる手段をとることができる可能性もありますが、疾患リスクによって、保険の加入に制限が設けられるかもしれません。結婚相手を選ぶ際には、ゲノム情報の開示を求められることも起こるかもしれません。さらには胎児のゲノム解析を行い、望まない出産は減らすというようなことも起こるかもしれません。そして、今回の原発事故のように予期せぬストレスにさらされ、急激にもたらされたゲノム異常はどう扱うのでしょうか?医療は、進むべき道を踏み誤らないように充分に注意を払わねばならないように思います。原子力とDNAという20世紀の偉大な発見は、21世紀を生きる人間には大きな課題でもあります。

およそ医療行為は、cureを目指すものとcareを目指すものがあるかと思いますが、現在多くの人々を苦しめている慢性疾患、たとえば高血圧や糖尿病、変形性関節症の治療の多くは、cureではなくcareを目指したものです。たとえばわれわれが施す人工関節なるものも到底疾患をcureしたものとは言えず、careの範疇を出ないものと思います。願わくば、パーソナル・ゲノム解析がこれらの疾患の予防とcureにつながればと感じます。 呑むさん

慶応大学病理部の向井万起男先生(宇宙飛行士の千秋さんのhusband)が'大リーグ大好き'というコラムを朝日新聞に連載されています。SABR(Society for American Baseball Research)の会員としては、いつも先生に負けないくらいの大リーグネタを持たねばと思うのですが、いつもその博学に感服させられます。今日のコラムは、大リーグに導入された、そしてされようとしているビデオ判定のものでしたが、かいつまんで言うと、ストライク・ボールの判定が一定でないものに、その結果産まれたホームランか、フェアかファールかという判定をビデオでする意義があるのかという話題でした。それであるならば、ストライク・ボールの判定もビデオでするべきという議論になるわけですが、そこで先生はエンジェルスやツインズで何度も首位打者をとったロッド・カルーのエピソードを引き合いに出して、やんわりとそれを否定されています(そこまでやったら、野球じゃなくなるよ。野球は人間がやってんだ)。

これを医療の臨床研究に当てはめてみますと、例えば手術適応が一定でないものに手術件数や術後成績を比較して意義があるのかということになるかと思います。確かに膝OAに対する人工膝関節の手術適応を厳密に述べよと言われて、世界的にコンセンサスの得られる回答はないということを考えれば、ストライク・ボールと似たようなものという感じもします。適応は、広げればいくらでも件数は増やせますし(ストライクもある程度は増やせます。相手の抗議がたいしたものでなければ。そして同じ審判でも日によってストライクゾーンは違うとも言います)、術後成績にもそれは影響します。従って、臨床研究もまずこの辺りをしっかりする必要があるように思われます。でも、それが厳密でないのが、野球と同じで人間と人間の間で行われる行為であるということも医学の真実・魅力であるように感じます。ノムさん